読書&映画感想覚え書き

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高村薫「晴子情歌」「新リア王」
晴子情歌 上晴子情歌 上
(2002/05/30)
高村 薫

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晴子情歌 下晴子情歌 下
(2002/05/30)
高村 薫

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新リア王 上新リア王 上
(2005/10/26)
高村 薫

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新リア王 下新リア王 下
(2005/10/26)
高村 薫

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「太陽を曳く馬」を読み終えて、彰之という人物がどうにもこうにも、雲のように漠として
捉えようのない存在であるとしか思えなかったので、
この人物がどのようにして形成されたのか知りたくて、この大長編に挑んだ。
第三部で彰之の出生のいきさつを知らされていたから、
第一部「晴子情歌」のヒロイン晴子という女性に、自分は難儀することに
なるだろうと予想していたが、それは想像以上のものだった。
15歳での環境の激変、東北の寒村での暮らし、
過酷な状況ではあるけれど、晴子は、決して流されるのではなく、
その時々に、「自分の意志」で、しなやかに瑞々しく
自分の「生」の道筋を歩んでいく。
強く美しい女性だ。
けれど感情移入することがあまり無かった。
むしろ、母親の100通にも及ぶ手紙を手にして戸惑っている彰之の心持ちの方が理解出来た。
理解と言えば、第二部「新リア王」で語られた、
福澤家の二女「和子」、この意に染まぬ結婚を強いられるも、
4人の子を設け、本家の子供達への対抗心を燃やし続け、最愛の末っ子を海で亡くして仕舞った
女傑、晩年になって今度は娘婿を一族の政争の犠牲で亡くして仕舞うというあの女性の生きざま、
そして紙面に多く割かれている訳ではないけれど、
福澤百合という女性、「執念で煮しめたような」と彰之に形容された紺色のスーツを着て、
榮の後援会事務局長を務めあげる初老の女性、出自の引け目や
福澤の名を持つ矜持やら諸々を厚い鎧の下に長年蓄積し続けている、
そういう彼女らに共感した。感情移入した。
第二部「新リア王」では、ちょうど今、菅直人新首相誕生という時期なので、
文中に当時の政治家達の実名が多く出てくる事が興味深かった。
「政治とカネ」「トカゲのしっぽ切り」「面従背反」
何十年経っても結局は、同じことをやっているのじゃないかと。

どこまで私は、この物語を理解出来たのか、判らないけれど、
最後に心に残ったのは、
人はみな孤であるなあということだった。
孤であるからこそ、命を燃やせる対象に出逢えたものは、幸せなのだろう。
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太陽を曳く馬
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高村 薫

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太陽を曳く馬〈下〉太陽を曳く馬〈下〉
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高村 薫

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つい先日文庫化された「レディージョーカー」を読んだばかりだったので、
この「太陽を曳く馬」での合田雄一郎の変貌ぶりに驚いた。
合田は、もとより危うい男だったと思う。
けれどもそれは、瑞々しい感性と生真面目さと誠実さの表皮から、
時折肉体の奥に孕む熱いマグマが奔出してしまうような、
我が身の危険など全く顧みず、事件の深い闇へ突進しかねない危うさだった。
それがこの「太陽を曳く馬」での合田は、これが同じ人間か!?と
驚くほど様変わりしていた。
精気がない。「生」に倦み疲れたかのようだ。
何より合田が「おまえは」と二人称で自問自答していることに慄いた。。
「レディージョーカー」事件の時には、
合田の留守中勝手に家へ上がり込み、手料理を作り、
アイロンがけまで仕上げていくなどという
合田の守護神であるかのようだった加納も今は、遠く離れている。
彼が検事を辞めて判事となって大阪に移ったというのにも
驚いたけれど。
ともあれ、合田がこういう危うい淵の際にかろうじて立っている
というような状況で対峙するのが、福澤秋道、末永和哉という
それぞれ困難極まりない謎なのだから、
しかも文中にこれでもかと現れて来るのが、
美術と色彩と円環と禅とオーム教についての
夥しい文言。
文字を読むことは出来ても、実際には、どれだけ理解出来ただろうか
非常に心もとない。
けれどもとても惹き付けられて読み進んだ。
《私》たるものの自由、《私》の生、《私》の拒絶、
『自由である意志』『自由である死』。
合田が最後に手に入れた彰閑の手紙の章で
涙しました。
父親の死にゆく息子へ宛てた思いの深さに打たれたということもあります。
『バーミリオンの光は、君を意味へ、世界へ、生命へ、
生きることへと押し出していく當のものだったはずだと。』
『「太陽を曳く馬」の 版は・・・
君が生命の跳躍をしたことの徴だった』
この言葉が心に残りました。

わたしを離さないで
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
(2008/08/22)
カズオ・イシグロ

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人は、何をもって「人である」とみなされるのだろうか。
何を見て何を感じ、他者と触れ合い友情を培い、愛を育み、
何を記憶に刻みつけるのか、
そうして初めて、人は「人として生きる」のでは、なかろうか。

「提供者」と呼ばれる人々の世話をする
優秀な介護人である主人公キャシーは、今年いっぱいで
介護人の仕事を退こうと考え、「へールシャム」という施設で
一緒に育ちやがてキャシーが介護人として世話をした
ルースとトミーとの関わりを回想する。
思春期の子供達の微妙な心の揺れが穏やかな語り口で
綴られていく。
けれど、どこか何かがもどかしい。
やがて物語の終盤になって、「へールシャム」の真実が
明らかになる。
『目を固く閉じて、胸に古い世界をしっかり抱きかかえている。
心の中では消えつつある世界だとわかっているのに、
それを抱き締めて、離さないで、離さないでと懇願している』
この文章が強く心に残った。

吉田修一「悪人」
悪人悪人
(2007/04/06)
吉田 修一

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ひとつの殺人事件が起こり、その被害者と捜査上に浮かんだ容疑者の家族、
友人、同僚たちの証言が静かに積み重ねられていく。
田舎に暮らす者の閉塞感、寂寥感、孤独感を強く感じた。
何かがほんの少しズレて仕舞っただけで、殺人にまで至った悲劇なのだけれど、
何をもって「悪」なのか「善」なのか、読み終えて私の価値観が
少し揺らいだような感覚を覚えた。
終盤近くで被害者の父親が事件のきっかけになった男性に
『今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、
何でもできると思いこむ。自分には失うもんがなかっち、
それで自分が強うなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。
だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思いこんで、失ったり、
欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。
そうじゃなかとよ。本当はそれじゃ駄目とよ。』と語る場面があるが、
この言葉が強く心に残った。
「強さ」ってなんだろうね。
祐一は、自分の心も上手く相手に伝えられないような
不器用な男だったけれど、光代に出会ってから、光代に受け入れられてからは、
強くなったのじゃないかな。
『早う事件のことを忘れてくれって……。馬込さんなりに幸せになってくれって……。』
そう言える強さ。
祐一の祖母がオレンジ色のスカーフを巻いて、事務所に乗り込んでいくシーンが好きだ。
『……これまで必死に生きてきたとぞ。アンタらなんかに……、
アンタらなんかに馬鹿にされてたまるもんか!』

それにしても『純愛』というものは、儚いものだね。
どんなに愛し合い、かけがえのない物だと信じていても、
距離や時間や世間の声で揺らぐものなのか。
『あの人は悪人やったんですよね?』
「被害者」であることを受け入れて社会復帰した光代よりも
最後に加害者であることを主張した祐一の方が
救われたのだと私は、感じた。
「善」か「悪」かなんて、人の形のプリズムから発せられた
その時々の光にしか過ぎないと思った。



弱法師
弱法師弱法師
(2004/02/26)
中山 可穂

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弱法師 (文春文庫 な 53-1)弱法師 (文春文庫 な 53-1)
(2007/02)
中山 可穂

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『かなわぬ恋こそ、美しい。』帯の表にそう書かれている。
帯の裏には、『十冊目にして初めて、わたしは純愛小説というものを
書いたのかもしれません。・・・片思いに苦しんだことのある
すべての人に読んでいただきたいと思います』との作者中山可穂のメッセージが
載せられている。
第一話「弱法師」
死に至る難病に冒された少年朔也と、彼へ継父という立場を超えたもの狂おしい
愛情を抱くようになった脳神経外科医鷹之との、濃密かつ危うい緊張感漂う
世界に惹き込まれた。鷹之が安定した地位も家庭も捨て、
朔也とその母映子との暮しを選び、やがて体中甘い蜜が沁み出すような女映子を喪い、
かわりに珠代という女に安らぎを見出してさえ、朔也への一途な愛を捧げるようになる過程が
切ない。一方、太字で挿入される朔也と未央のメールのやり取りからは、
魂で結ばれた穢れない少年少女の純愛の形を浮かび上がらせて来る。
ラストの「海に振る雪」のシーンの喪失感が深かった。

第二話「卒塔婆小町」
芽が出ない作家高丘は、ある夜出会った奇妙なホームレスの女から
深町遼という作家にまつわる伝説を聴く事になる。


美貌で辣腕の女性編集者柳原百合子が、いかなる男の求愛にも応えなかったのは、
「じゃがいもより、さつまいもが好きだったから」


男よりも女の方が好き・・・この設定に、驚いた。


100本分のラブレターである小説を百合子に捧げる・・・命をすり減らすように
百合子への愛を形にしようと懸命に創作に打ち込む深町と
「誰も好きにならないように、無駄な涙を流さなくてもすむように」
誰も愛さず孤独と哀しみをそっと自分自身の両腕で抱き締めながら生きて来た
百合子の姿が堪らない程切なく儚い。
深町遼がたった一通だけ百合子に送った手紙の文面は、この上なく愛に満ち溢れている。
眩い程尊く美しい。
陽を浴びて溶け始めた雪だるまの中から百合子が現れた最後の場面、
深町の小説の一節をびっしり書き込んだ卒塔婆の群れに囲まれて、彼の墓を
抱き締めるような百合子の最後は、とても安らかなものだったのだろう。
哀しいけれど、清々しさが心に残った。

第三話「浮舟」
世界中を旅し、時々ふらっと日本に立ち戻り碧生の家に帰ってくる薫子おばさん
・・・この女性が、実に魅力的だ。
心臓が弱く、日々をただ生きていくことだけで精一杯で、子供の碧生に対しても
夫香丞に対してもバリアが張られていたような母文音・・・子供の頃の思い出にある
母と父、それに父の2つ上の姉薫子が合奏していたシューベルトのピアノ三重奏曲の調べには、
碧生が踏み込んで行けない張り詰めた不安感が漂っていた。
父が長いドライブで娘に語った家族の秘密が痛ましい。
一人の女性を互いに狂おしいまでに愛し、罪を犯し、或いはその罪を赦し身を引いた人間たち。
二人から愛し抜かれどちらも選べず、《命がけの出産をした後で、
十数年かけてゆっくり死んでいくことを選んだ意思の強い大人の女性》
彼らの生は、切なく痛ましいけれど、それほどまでに人を愛せるとは、
何て美しいのだろう。
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