読書&映画感想覚え書き

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吉田修一「悪人」
悪人悪人
(2007/04/06)
吉田 修一

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ひとつの殺人事件が起こり、その被害者と捜査上に浮かんだ容疑者の家族、
友人、同僚たちの証言が静かに積み重ねられていく。
田舎に暮らす者の閉塞感、寂寥感、孤独感を強く感じた。
何かがほんの少しズレて仕舞っただけで、殺人にまで至った悲劇なのだけれど、
何をもって「悪」なのか「善」なのか、読み終えて私の価値観が
少し揺らいだような感覚を覚えた。
終盤近くで被害者の父親が事件のきっかけになった男性に
『今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、
何でもできると思いこむ。自分には失うもんがなかっち、
それで自分が強うなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。
だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思いこんで、失ったり、
欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。
そうじゃなかとよ。本当はそれじゃ駄目とよ。』と語る場面があるが、
この言葉が強く心に残った。
「強さ」ってなんだろうね。
祐一は、自分の心も上手く相手に伝えられないような
不器用な男だったけれど、光代に出会ってから、光代に受け入れられてからは、
強くなったのじゃないかな。
『早う事件のことを忘れてくれって……。馬込さんなりに幸せになってくれって……。』
そう言える強さ。
祐一の祖母がオレンジ色のスカーフを巻いて、事務所に乗り込んでいくシーンが好きだ。
『……これまで必死に生きてきたとぞ。アンタらなんかに……、
アンタらなんかに馬鹿にされてたまるもんか!』

それにしても『純愛』というものは、儚いものだね。
どんなに愛し合い、かけがえのない物だと信じていても、
距離や時間や世間の声で揺らぐものなのか。
『あの人は悪人やったんですよね?』
「被害者」であることを受け入れて社会復帰した光代よりも
最後に加害者であることを主張した祐一の方が
救われたのだと私は、感じた。
「善」か「悪」かなんて、人の形のプリズムから発せられた
その時々の光にしか過ぎないと思った。


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